笑顔とヨガがもたらした2人の絆(伴走体験)

2019年2月6日

かすみがうらマラソン兼国際盲人マラソン2019でゲストランナーを務める女優・ヨガインストラクターの松本莉緒さん。これまでにフルマラソン完走の経験がある松本さんですが、今回は国際盲人マラソン5kmの部に視覚障がいランナーの“伴走者”として出場します。 
 
 

レース当日に松本さんと5kmを走る視覚障がいランナーは、筑波大学附属視覚特別支援学校高等部3年の工藤星奈さんです。これまで伴走経験のない松本さんですが、工藤さんと初めての伴走練習会を行い、ここから2人のチャレンジが始まりました。その様子をレポートします。
 
 


                      (左が工藤さん、右が松本さん)
 

2人にとっての未知の世界

 
 

筑波大学附属視覚特別支援学校の陸上部に所属する工藤さんは、純粋無垢なティーンエイジャー。松本さんとの初対面のシーンでは「今日の練習会をとても楽しみにしていて(それをモチベーションに)学校での勉強もより一層頑張ってきました!」と笑顔で話しました。
 
 

工藤さんは駅伝で3.4kmのレースを経験していますが、国際盲人マラソンで松本さんと走る5kmという距離は、彼女にとってこれまでのレースでの最長距離となります。一方の松本さんはフルマラソンの完走経験がありますが、レースでの伴走は初体験。工藤さんにとっては未知の距離、松本さんにとっては未知の体験。このチャレンジは、この2人にとって大きな意味を持ちます。
 
 


                     (原田清生先生の指導を受ける松本さん)
 
 

伴走初体験の松本さんに、伴走の指導をするのは日本ブラインドマラソン協会(JBMA)理事で、筑波大学附属視覚特別支援学校の陸上部顧問を務める原田清生先生。まずは、ロープを握って一緒に歩き始めるところからスタートし、原田先生は伴走の基礎から松本さんに指導していきます。
 
 

伴走者の役割は様々ありますが、その基礎としてコンビを組むランナー同士の信頼関係の構築が重要となります。工藤さんと松本さんはこの日が初対面とはいえ、歩きながらお互い会話が弾みます。そして、次第にウォークからランニングの動きへと変わっていきます。
 
 


                    (笑顔で楽しく走る工藤さんと松本さん)
  
 

原田先生(写真右端)に加えて、工藤さんの日頃の伴走を務める佐藤北斗先生(写真左端)も一緒になって2人の伴走練習を見守ります。2人はとても楽しく走っていて、会話も弾んでいます。しかし、松本さんは工藤さんの走りのリズムに合わせようとしますが、これがなかなかうまくいきません。足と腕の動きを同調させるということは見た目以上に難しいのです。
 
 

2人の呼吸を合わせる「ヨガ」

伴走練習会は休憩を挟んで、ヨガタイムに入りました。2019年2月に自身のヨガスタジオをオープンするヨガインストラクターの松本さんは、得意のヨガで2人の呼吸を合わせようと試みます。
 
 


                    (ヨガのポーズで呼吸を合わせる2人)

 
 

「今回の練習会の途中どこかでヨガをやって、2人の呼吸を合わせたいと思っていたんです。」と松本さん。背中どおしでお互いの体を合わせながら、深呼吸をしていきます。それまでの楽しい会話のムードと打って変わって「スーーーッ。」と静かに2人の呼吸を合わせていきます。
 
 


                    (だんだんと走りのリズムが合ってくる2人)
 
 

ヨガタイムを終えた2人は伴走練習を再開。すると、それまでなかなか合わなかった2人の走りのリズムがだんだんと合ってきました。「ヨガに興味があったので、松本さんと一緒に呼吸を合わすことができて、すごく気持ちよかったです。その後も走ってみたら、松本さんとの呼吸が合っていました。」と工藤さん。初めての伴走練習ではお互いに走りのリズムを合わせることは簡単なことではありませんが、この2人にとってヨガの時間を設けたことがプラスに働きました。
 
 

練習終了後に2人は満面の笑みを浮かべました。伴走練習を振り返って工藤さんは「松本さんがいっぱい話しかけてくれたので、たくさん話ができてすごく楽しかったです」と笑顔で話し、松本さんは「この日を待ち望んでいたんです。工藤さんはとても“意志”が強い子だと感じました。」と振り返りました。
 
 


                    (練習終了後には満面の笑みが)
    
 

2人は今回の伴走練習会でお互いの信頼関係を作ることに成功。なかでも途中に挟んだヨガは大きな効果があったといえます。これについて松本さんは「私たち2人のルーティーンをこれからの練習会でも作っていこうと思いました。」と話します。
 
 

今回の伴走練習会はグラウンドの周回というシンプルなコースでのランニングでしたが、次回はグラウンドの外に出て公道を走る予定です。視覚障がいランナーと公道を走る際は、安全確保や状況説明のための伴走者の声かけがより必要とされます。松本さんは「公道では様々な点に気を配って声かけしていきたいですね。次回の伴走練習会まで、そういった点を研究して過ごしたいと思います。」と前を見ています。
 
2人のチャレンジは始まったばかりです。次回の2人の伴走練習会のレポートをお楽しみに。

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河原井 司

ライター。かすみがうらマラソンでは2015年大会に2時間57分09秒でマラソンを完走し、2018年大会では視覚障がいランナー・伴走者とともにマラソンを完走。